えて、とび上ってしまいました。
 皆さん、それから私が、つくづくと、ほかにもたくさん寝ていた黒いものを見た時、まあ、どんなにおどろいたか、お察しください。それはみんな、黒い大きな蛇《へび》だったのです。
 なお、よくよくあたりを見ますと、ここは、岩のかさなりあった、深い谷底でした。どちらを向いても、びょうぶのようにけわしい山が、そびえていました。そして、岩の間には、このおそろしい蛇よりほか何にもいませんでした。
「ああ、こんなことなら、いっそあの島にいた方が、ましだった。わざわざ、もっとひどい目にあうために、この島へ来たようなものだ。」と、私は泣き泣き、ひとりごとを言いました。
 そして、じっと岩を見つめていますと、何だか、きらきらとよく光る石が、そこら一面にちらばっているではありませんか。ふしぎだなと思って、ずっとよって見ると、それがみんな、大へん大きなダイヤモンドでありました。ちょうど小石くらいの大きさのものです。私は、とび上るほどよろこびました。
 しかし、すぐに、おそろしい蛇が、私にかみつこうとして、ねらっているのに気がつきましたから、そのよろこびはどこへやら、背中にぞっとさむけがたちました。
 蛇は、どれもこれも、大そう大きなものでした。象《ぞう》でも、一口にのみそうなものばかりです。昼間はロックがこわいので、じっとしていても、夜になると、のたりのたりとはいまわって、食べ物をさがすのでした。
 私は、日がくれないうちに、岩の中の穴を見つけて、その中にしゃがんで、ふるえながら夜のあけるのを待ちました。そして朝になってから、もう一度、谷へ出て行きました。
 さて、これからいったい、どうしたらいいのだろうと、じっとすわって考えていますと、ちょうど目の前へ、ころころと大きな生《なま》の肉のきれが、ころがって落ちてきました。それからまた、同じようなのが落ちてきました。そして、次から次と落ちてきて、見る見るもり上ってしまいました。
 この時、私はふと、ある旅行家《りょこうか》から聞いた、ダイヤモンド谷の話を思い出しました。それは、毎年わし[#「わし」に傍点]が卵をかえす時分になると、商人たちが、高い山へのぼって行って、生の肉のきれを、谷底をめがけてころがし落すのでした。すると、谷にちらばっているダイヤモンドが、その肉の中へ、はまりこみます。その肉を、わしがひな[#「ひ
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