アラビヤンナイト
一、アラジンとふしぎなランプ
菊池寛

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)貧乏《びんぼう》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)十|箇《こ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)しな[#「しな」に傍点]
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 昔、しな[#「しな」に傍点]の都に、ムスタフという貧乏《びんぼう》な仕立屋が住んでいました。このムスタフには、おかみさんと、アラジンと呼ぶたった一人の息子《むすこ》とがありました。
 この仕立屋は大へん心がけのよい人で、一生けんめいに働きました。けれども、悲しいことには、息子が大《だい》のなまけ者で、年が年じゅう、町へ行って、なまけ者の子供たちと遊びくらしていました。何か仕事をおぼえなければならない年頃になっても、そんなことはまっぴらだと言ってはねつけますので、ほんとうにこの子のことをどうしたらいいのか、両親もとほうにくれているありさまでした。
 それでも、お父さんのムスタフは、せめて仕立屋にでもしようと思いました。それである日、アラジンを仕事場へつれて入って、仕立物を教《おし》えようとしましたが、アラジンは、ばかにして笑っているばかりでした。そして、お父さんのゆだんを見すまして、いち早くにげ出してしまいました。お父さんとお母さんは、すぐに追っかけて出たのですけれど、アラジンの走り方があんまり早いので、もうどこへ行ったのか、かいもく、姿は見えませんでした。
「ああ、わしには、このなまけ者をどうすることもできないのか。」
 ムスタフは、なげきました。そして、まもなく、子供のことを心配のあまり、病気になって、死んでしまいました。こうなると、アラジンのお母さんは、少しばかりあった仕立物に使う道具《どうぐ》を売りはらって、それから後は、糸をつむいでくらしを立てていました。
 さて、ある日、アラジンが、いつものように、町のなまけ者と一しょに、めんこ[#「めんこ」に傍点]をして遊んでいました。ところがそこへ、いつのまにか背《せい》の高い、色の黒いおじいさんがやって来て、じっとアラジンを見つめていました。やがて、めんこが一しょうぶ終った時、そのおじいさんがアラジンに「おいで、おいで」をしました。そして、
「お前の名は何と言うのかね。」と、たずねました。この人は大へんしんせつそうなふう
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