をしていましたが、ほんとうは、アフリカのまほう[#「まほう」に傍点]使でした。
「私の名はアラジンです。」
 アラジンは、いったい、このおじいさんはだれだろうと思いながら、こう答えました。
「それから、お前のお父さんの名は。」また、まほう使が聞きました。
「お父さんの名はムスタフと言って、仕立屋でした。でも、とっくの昔に死にましたよ。」
と、アラジンは答えました。すると、この悪者のまほう使は、
「ああ、それは私の弟だ。お前は、まあ、私の甥《おい》だったんだね。私は、しばらく外国へ行っていた、お前の伯父《おじ》さんなんだよ。」
と言って、いきなりアラジンをだきしめました。そして、
「早く家へ帰って、お母さんに、私が会いに行きますから、と言っておくれ。それから、ほんの少しですが、と言って、これをあげておくれ。」と言って、アラジンの手に、金貨《きんか》を五枚にぎらせました。
 アラジンは、大いそぎで家へ帰って、お母さんに、この伯父さんだという人の話をしました。するとお母さんは、
「そりゃあ、きっと、何かのまちがいだろう。お前に伯父さんなんか、ありゃあしないよ。」と、言いました。
 しかし、お母さんは、その人がくれたという金貨を見て、ひょっとしたら、そのおじいさんはしんるいの人かもしれない、と思いました。それで、できるかぎりのごちそうをして、その人が来るのを待っていました。
 まもなくアフリカのまほう使は、いろいろめずらしい果物や、おいしいお菓子をどっさりおみやげに持って、やって来ました。
「なくなった、かわいそうな弟の話をしてください。いつも弟がどこに腰《こし》かけていたか、教えてください。」
と、まほう使は、お母さんとアラジンに聞きました。
 お母さんは、いつもムスタフが腰かけていた、長いす[#「いす」に傍点]を教えてやりました。すると、まほう使は、その前にひざまずいて、泣きながらその長いすにキッスしました。それで、お母さんは、この男はなくなった主人の兄さんにちがいない、と思うようになりました。ことに、このまほう使が、アラジンをなめるようにかわいがるのを見て、なおさら、そうときめてしまったのでした。
「何か、仕事をしているかね。」まほう使がアラジンにたずねました。
「まあ、ほんとうに、おはずかしゅうございますわ。この子は、しょっちゅう町へ行って、遊んでばかりいまして、ま
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