だ何にもしていないのでございますよ。」
お母さんが手をもみながら、そう答えました。
アラジンは、伯父さんだという人が、じっと自分を見つめているので、はずかしそうに、うつむいていました。
「何か仕事をしなきゃあいけませんな。」
まほう使は、こうお母さんに言っておいて、さて、こんどはアラジンに、
「お前はいったい、どんな商売がしてみたいのかね。私はお前に呉服店《ごふくみせ》を出させてあげようと思っているのだが。」と、言いました。
アラジンは、これを聞くと、うちょうてんになってよろこびました。
あくる日、伯父さんだという人は、アラジンに、りっぱな着物を一そろい買って来てくれました。アラジンは、それを着て、この伯父さんだという人につれられて、町じゅうを見物して歩きました。
その次の日もまた、まほう使はアラジンをつれ出しました。そして、こんどは、美しい花園《はなぞの》の中を通りぬけて、田舎《いなか》へ出ました。二人はずいぶん歩きました。アラジンは、そろそろくたびれはじめました。けれども、まほう使がおいしいお菓子や果物をくれたり、めずらしい話を次から次と話して聞かせてくれたりするものですから、大してくたびれもしませんでした。そんなにして、とうとう二人は山と山との間の深い谷まで来てしまいました。そこでやっと、まほう使が足をとめました。
「ああ、とうとうやって来たな。まず、たき火をしようじゃあないか。かれ枝を少し拾《ひろ》って来ておくれ。」と、アラジンに言いました。
アラジンはさっそく、かれ枝を拾いに行きました。そして、すぐ両手にいっぱいかかえて、帰って来ました。まほう使は、それに火をつけました。かれ枝は、どんどんもえはじめました。おじいさんはふしぎな粉《こな》を、ポケットから出しました。それから、口の中で何かぶつぶつ言いながら、火の上にふりかけました。すると、たちまち大地がゆれはじめました。そして、目の前の地面がぱっとわれて、大きな、まっ四角な平たい石があらわれてきました。その石の上には、輪《わ》がはまっていました。
アラジンはこわがって、家へ走って帰ろうとしました。けれども、まほう使はそうはさせませんでした。アラジンのえりがみをつかんで、引きもどしました。
「伯父さん、どうしてこんなひどいことをするんです。」アラジンは泣きじゃくりながら見上げました。
「だまって
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