と思っているのか。お前は私のご主人を殺して、あの天じょうからぶらさげてくれというのか。そんなばかは、死んでしまうがいいや。」
おばけの目は、まるで石炭がもえている時のように、まっ赤になっていました。しかし、やがて言葉をやわらげて、
「だけれども、それはお前の心から出た願いでないということを、私はよーっく知っているのだよ。それは尼《あま》さんの風をしている、悪者のまほう使が言わせたのだろう。」
と、言いました。そして、おばけは消えました。アラジンは、お姫さまが待っているへやへ、いそいで行きました。そして、
「私は、ずつうがしてなりません。尼さんを呼んでくださいませんか。あの方のお手でさすっていただいたら、きっとなおるだろうと思います。」と、お姫さまに申しました。
すぐに、にせのファティマが来ました。アラジンはとびついて、その胸へ、短刀《たんとう》をつきさしました。
「どうなすったのです。まあ、あなたは尼さんを殺すのですか。」
お姫さまは泣き声でとがめました。
「これは、尼さんではございません。これは私たちを殺しに来たまほう使です。」と、アラジンが申しました。
こんなにして、アラジンは二人の悪いまほう使の悪だくみからのがれました。そして、もうこの世の中には、だれもアラジンの仕合せのじゃまをする者はなくなりました。
アラジンとお姫さまは、長い間たのしくくらしました。そして、王さまがおかくれになった時、二人はとうとう、王さまとおきさきさまになりました。そして国をよくおさめました。いつまでもいつまでもその国はさかえたということであります。
底本:「アラビヤンナイト」主婦之友社
1948(昭和23)年7月10日初版発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
入力:大久保ゆう
校正:京都大学点訳サークル
2004年11月2日作成
青空文庫作成ファイル:
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