ったからであります。
 はたして、その弟がかたきうちのために、しなへやって来ました。アラジンをひどい目にあわせて、まほうのランプをぶんどって来ようと決心して来たのであります。そして、しなへつくとすぐに、こっそり、まずファティマという尼《あま》さんをたずねて行きました。そして、上着とベールとを、むりやりにかしてもらいました。それから、このことがほかの人に知られてはいけないと思って、尼さんを殺してしまいました。
 さて、この悪者のまほう使は、尼さんの上着とベールとをつけて、アラジンの御殿の近くの町を通りました。町の人々は、ほんとうの尼さんだと思って、ひざまずいてその上着にキッスしました。
 まもなく、お姫さまは、ファティマが町を通っているということをお聞きになりました。それで、すぐ御殿へ来てくれるようにと、使をおやりになりました。お姫さまは、ファティマをしじゅう見たい見たいと思っていらっしたものですから、尼さんが来た時、大へんていねいにおもてなしなさいました。そして大広間へつれておいでになって、同じ長いす[#「いす」に傍点]に腰《こし》かけながら、
「このへやがお気に召しまして。」と、お聞きになりました。
 まほう使はベールを深くかぶったままで、
「ほんとうに、目がさめるほどおきれいでございますこと。ですけれども、私このおへやに、たった一つほしいと思うものがございますのよ。それはほかでもございません、ロック鳥《ちょう》の卵が、あの高い天じょうのまん中からぶらさがっていたら、もう申し分なしだと思いますわ。」と、答えました。
 これをお聞きになってお姫さまは、何だか急に、この大広間がものたりないように思いはじめになりました。そして、アラジンが入って来た時、大へん悲しそうな顔をしていらっしゃいました。アラジンは、何事が起ったのですか、とたずねました。お姫さまは、
「私、この天じょうから、ロック鳥の卵がぶらさがっていなきゃあ、何だか悲しいんですもの。」と、おっしゃいました。
「そんなことなら、ぞうさないじゃございませんか。」と、アラジンはこともなげに言ってランプをおろして、廊下《ろうか》へ出てあのおばけを呼びました。
 けれども、ランプのおばけは、その命令を聞くと、大へんおこりました。顔をぶるぶるふるわせながら、アラジンをしかりつけました。
「大ばか者、そんなものを私がやられる
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