を地上に現すのであった。発射が終る瞬間、それは再び急速に沈下するのであった。
 ゼラール中尉は、独兵が侵入して以来、どうにかして、ガスコアン大尉に会って前の日の激論の止めをさしたいと思っていた。が、大尉はなんとなくゼラール中尉を避けているようであった。
 次の日の金曜には、独軍の砲撃は猛烈を極めていた。フレロン要塞にも頻々として命中弾が続いた。第三と第七の砲台が半ば以上破壊されてしまった。
 ゼラール中尉の奮戦はまことに見事であった。彼の勇敢な、しかも沈着な態度は、部下の信頼を買うのに十分であった。
 その日、ガスコアン大尉は、司令官から各砲台の視察を命ぜられたので、余儀なく第二砲台を訪《と》わねばならなかった。大尉と中尉とはしばらく睨み合っていた。公式上の応答が済むと、ゼラール中尉は、
「どうです、時は正当な審判者ですね」といいながら敵意のある微笑をもらした。見ると、ガスコアン大尉の顔は怒りに震えていた。大尉は国家の存亡の時に当っても、なお自分の意地を捨てないで、独軍の侵入を欣《よろこ》んでいるようなゼラール中尉を心から憎んだのである。彼は思わず佩剣《はいけん》の柄《つか》を握りしめ
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