に語し始めるのです。食道楽の僕ですから、こんな話をきくと、ついつりこまれてしまうのです。ことに侯爵家などといえば、きっと腕の冴えた料理人がいるはずです。それが、十分に腕を振るってやる仕事ですから、杉浦にとって、生れて初めての御馳走であったのも、もっともだと思いました。
「一体、どうしてそんな御馳走になったんだい」
 と、僕は少々羨ましくなって、ききました。
「それが、こうなんだよ。この間ね、華族会館へ侯爵の写真を撮りに行ったんだ。すると写真がすんでから、侯爵が、『どうだ、いっぺん御馳走をしてやろうか』というんだ。僕はしめたと思ったから、『是非願います』といったんだ。すると『こんどの金曜日に麻布の家へ来い。うまいフランス料理を食わしてやるから』というんだ」
「それで早速行ったんだねえ」
「ところが、昨日行ってみると、家令のやつが、威張りやがって取次ぎしないんだ。侯爵から、何も御沙汰がないといってね。だから、僕はうんと家令をやっつけてやったよ、侯爵が御馳走してやるからといったから来たのだ。それに、取次ぎをしないなんて、けしからん、侯爵にお目にかかって、免職させてやるからといってやると、家令
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