才なさは、誰にでも示されているのだ。それを自分にばかり示されるものだと思っているのは、あいつの自惚れに違いない。こう思うと、M侯爵には少しも責任がなく、杉浦にだけ責任があるように思われるのです。が、そうすればすっぽん料理の一件は、どうなるだろうかと思いました。侯爵は、杉浦が家令を威嚇して御馳走の強制をやったようにいっている。あれから見れば、侯爵が杉浦に御馳走する意志がなかったのは明らかである。が、それならば杉浦が突然御飯時に押しかけて行って、御馳走を強制したのだろうか。そうとも僕には思われないのです。いくら杉浦が図々しくても、御馳走の強制に押しかけるほど図々しくないことは、同僚甲斐だけに、あいつのために信じてやりたいのです。すると結局、侯爵に御馳走する意志が本当にあったかないかは別問題として、口先で「フランス料理を食わせてやる」といったことだけは、本当のように思われるのです。それが冗談半分であったか、お世辞であったか、捨て台詞であったか、とにかく侯爵が「フランス料理を食わせてやる。金曜においで」といったことだけは、本当のように僕には思われるのです。
その侯爵の冗談に、愛嬌に、気の早い
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