です。杉浦がいっていることと、まるきり反対なのです。杉浦の言葉に従えば、侯爵ぐらい杉浦に好意を持っている人は、ちょっとなさそうに思われるのです。侯爵に従えば、杉浦は侯爵にとってうるさいいやがられ者なのです。こうした食い違いの原因がどこにあるにしろ、そのこと自身は僕にとって、かなり不愉快なことでした。甲は乙から好意を持たれていると思っている、ところが、その実は乙は甲をいやがっている。それは侯爵と写真師といったような、まるきり階級の違った二人の間の関係でなくて、どんな二人の人間の関係であるとしても、不快ないやな関係であると思いました。
僕は、そうした関係の存在自身からでさえ、心を傷つけられました。かなり不快でした。それがとにかく自分の同僚と、自分が少しでも尊敬していた人との間に存在しているのですから、いっそう不快なわけです。が、いったい責任はどちらにあるのだろうと思ってみました。やっぱり、杉浦のやつの自惚れだ。あいつは、いつかT伯が時計をくれそうだなどと自惚れていたが、とうとう実現しなかったではないか。M侯爵があいつに好意を示したなどというのは、皆あいつの自惚れで、あいつに示すくらいの如
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