まま、先に立って案内してくれるのです。噂に違《たが》わないと思いました。大臣だとか大実業家だとか華族などになると、誰も彼もこう手軽には出て来ないのです。給仕に名刺を取次がしても、何だかだと二、三回も給仕の往復があった後、やっと応接室に通されるにしたところが、相手の出て来るのには、早くて十分、遅ければ一時間以上もかかる時があるのです。M侯爵の如く、自身さっさと出てくれるのは、新聞記者からいえば、理想的な人間です。
 侯爵は、僕に椅子を与えながら、自分は座らないで、燃えさかるストーブを背にして立ちながら、
「よっぽど寒くなったね。だいぶ押しつまって来たね。今日あたりは何も用はなさそうだが、それとも何かニュースがあるかね」
 と、気軽に話の緒《いとぐち》を向うから切ってくれました。
 僕は、こういう人たちと会う時に、今でも抜け切れない妙な重くるしい圧迫を少しも感ぜずに、自由に、予期した以上の材料を取ることができました。僕は、杉浦を通じて知った時以上に、M侯爵に感心しました。何という気軽な、いい人だろうと思いました。ところがちょうどその時です。用談が済んでしまうと、侯爵は急に話題を変えながら、
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