りましたから、快く引受けました。
「写真はどうですね。いりませんかね」
 と、いうと部長は笑いながら、
「ああ、杉浦君がいたら、すぐ飛んで行くんだけれど、今ちょっと本郷の方へ行っていますから、帰ったら後から別にやりましょう」
 といいました。
「ああ、そうですか」
 といって、僕は早速一人で出かけました。杉浦と一緒でないことは、ちょっと残念でもあり、心細く思いました。が、杉浦からかねがねきいているので、玄関払いとか居留守などを使われる心配がないと思いましたから、非常に安易な心持で出かけたのです。
 社を出る前に、給仕に電話で侯爵邸に問合わさせると、華族会館にいるとのことでした。僕は電車に乗らず歩いて行きました。
 華族会館の玄関で、給仕に取次ぎを頼むと、金ボタンの制服を着た給仕は、会社や銀行のそれとは違って、恭しくこちらの名刺を持って去りました。
 しばらくすると、つかつかと玄関へ現れたのは、写真や他所目《よそめ》には、たびたび見たことのあるM侯爵のにこにこした丸顔です。僕を見ると軽く会釈して、
「やあ! 君が佐藤君ですか。どこかで会ったことがあるようだね。さあ上りたまえ」
 といった
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