の祖母が、私の家へばかり足|繁《しげ》く来るものですからおしまいには、
『貴方《あなた》の家だけで、お祖母さんを独占してはいやよ。お祖母さんもお祖母さんだ、青山の家へばかり行って』などと、妻の姉妹が、不平を滾《こぼ》すほどでありました。
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もう、その頃は、祖母の話も、段々種が尽きかけて来た頃でありました。ある日私が、
「何か面白いお話はありませんでしょうか。何か少し変った、お祖母さん御自身がお会いなさったような出来ごとで」と、少し手を換えて話をねだりますと、祖母は少し考えていましたが、「そうだね。私は、私自身の事で誰にも話さないことがただ一つあるんだよ。一生涯誰にも云うまいと思っていたことだが……」と、祖母は、一寸《ちょっと》そのいかにも均斉の取れた顔を赤めましたが、「そうだね、懺悔《ざんげ》の積りでそっと話そうかね。綾さん(私の妻の名です)なんかの前では一寸話されない話だが丁度貴君一人だから」と、云いながら、祖母は次のような話を始めました。私は、その話を次ぎに書こうと思いますが、四五年前の話ですから、祖母の用いた口調までを、ソックリ伝える訳には行きません。そのお積
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