のでした。祖母は、間もなくその娘の家に、引き取られて其処《そこ》で幸福な晩年を送りました。孫達を心から愛しながら、又孫達に心から愛されながら。
        ×
 私が妻の祖母を知ったのは、無論妻と結婚してからであります。その時は、祖母は七十を越えていましたが、後室様と云っても、恥しくないような品位と挙動とを持った人でした。私の妻が彼女の一番末の孫に当っていましたから、彼女の愛情は、当時私の妻が独占していると云う形がありました。従って、三日にあげず、私達の新家庭を尋ねて来ました。美しい容貌《ようぼう》を持ちながら十八の年から後家を通した人だけあって、気の勝った男のように、ハキハキ物を云う人でありました。
 何時《いつ》も、車の音が門の前にしたかと思うと、彼女の華《はな》やかな、年齢よりは三四十も若いような声がしまして、
「又年寄がお邪魔に来ましたよ。若い者同志だと、時々|喧嘩《けんか》などを始めるものだから」などと、その年齢には丸きり似合わないような、気さく[#「さく」に傍点]な、年寄にしては蓮葉《はすっぱ》な挨拶《あいさつ》をしながら、どしどし上って来るのでありました。私は、祖母を
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