私は、この頃では貴女に見詰められることが段々苦しくなりました。貴女のお眸の謎が、私の心にも身にも、堪《た》えられないほど、重々しくヒシヒシと懸って来るのです。私は一日もこの重さに堪えられなくなりました。ところが、今度思いがけなく一座が、京の方へ上る事になりました。段々、出立《しゅったつ》の日が近づいて来るのであります。私は江戸に深い執着も持っていませんが、ただ貴女のお眸の謎を――貴女の本当のお心持を――解かないで、江戸を去るのが、如何《いか》にも心残りであります。今まで、私の舞台をあれほど、見物して下さったお情に、ただ一度でもよいから逢って下さいまし。そして、貴女のお口から、貴女の本当のお心を話して下さいまし。私は、貴女のお口から、お前を愛していたと、云う言葉だけを聞けば、私はそのお言葉を、何よりの餞別《せんべつ》として、江戸を去る積りであります。又、貴女のお口から、お前を愛してはいなかった、と云うお言葉を聞いても私はやっぱり、何よりの餞別として、江戸を去りたいと思うのです。どうか、私の一生の願を聞いてやると思召《おぼしめ》して、ただ一度で宜《よろ》しゅうございますから、お目にかかるこ
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