らない程嫌になって、日参のように守田座へ行ったのが、気恥しくなり、それきり守田座へは足踏みしなくなったのです」と、祖母は話を終りそうにしました。
「それぎりですか。それでもう、染之助とか云う人にはお逢《あ》いになりませんでしたか」と、私が後を話させるように質問しますと、
「だから、後日譚があると云ったじゃありませんか。半年ばかりは、守田座へ足踏みしなかったのですが、ある日の事娘が、
『お母さん、この頃はちっとも、お芝居に行かないのね。昨日、お師匠様の所で聞いたのよ。今度の守田座はそれはそれは大変な評判ですってね』と、云うじゃありませんか。娘を踊りのお稽古《けいこ》にやってあったのですが、そこで芝居の噂を聞いて来たらしいのです。素顔の染之助を見た時に感じた不愉快さが、段々醒めかかっていた頃ですから、私は芝居だけ見る分には、差支《さしつか》えはあるまいと思って、娘を連れて、守田座へ行って見たのです。芸題は忠臣蔵の通しで、染之助は勘平をやっているじゃありませんか。私はあの五段目の山崎街道のところで、勘平が――本当は染之助が、鉄砲と火繩とを持って花道から息せき切って駆けつけるのを見た時に、アッ
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