になって来たんだ。と言って相談を掛けられても俺の方でも今の処《ところ》あの家族をどうしてやれると言う程のゆとりがあるわけではなし、……そこでお前に相談に来たわけなんだが……。
けい ……。
伸太郎 俺も今更、お前にこんな事が相談出来た義理でもないのだが、外に大した名案もなしそれかと言って此の先何時まで続くか分らない戦争に、他人の力を当にするわけにもゆかないので……。
けい いいえそんな、相談出来た義理だの何だの。堤のお家はあなたのお家でございます。あなたがなさろうとお思いになる事に私はこれまで一度だって反対した事はございませんし、する理由もありませんわ。
伸太郎 確かにそうだ。お前の寛大なのをよい事にして俺はこれまで度々、当てにしてはならない時にお前を当てにしてすませて来たものだ。だからと言って俺が恥も面目も知らない人間だとは、まだ思っていないのだ。
けい 私は唯、松永さんがなぜ娘の事ならわたしに言って下さらなかったのかとそれを淋しく思ったのです。
伸太郎 そりゃ松永君だって事情を知らないわけじゃないんだから、お前に直接は言いにくかったんだろう。知栄は家を出る時は、ああして後足で砂をか
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