伸太郎 お蔭でね。
けい それは結構でした。あの、此処は火がありませんから、茶の間の方へでも参りましょうか。
伸太郎 いや。ここでいいよ。この部屋は昔から日当りのいい部屋だ。ここで日に当ってれば火鉢はいらん。
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縁側へ出て坐る。
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けい そうですか。じゃ。お前はいいよ。
清 はい。
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去る。
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伸太郎 新らしく来た子かね。
けい 前にいたのが母親が病気とかで暇をとりましたので……。無しでやってやれないことはないのですが。
伸太郎 いや、これだけの家に女中無しじゃ掃除だけでも大変だ。店の方も戦争が始まるとまたいろいろと大変だろう。
けい はあ。どうなってゆきますことか……でも私は大分前からそのつもりで仕度をしてきましたから……あの……もっと此方へいらっしゃいませんか。何ですか端近《はしぢか》で……。
伸太郎 うん。いや……いいよここで……、本郷の何は……
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