結構ですね。
井上 戸棚は、此処で、よろしゅうござんすか。
けい そうね。何《いず》れ、当人達が又勝手のいいように直すでしょうから……。
井上 随分古いものですね。こりゃあ。
けい 何しろ明治何年というのですから。
井上 そうでしょう。今出来の物とは違います。じゃ、先代がいらした頃ので。
けい 私がまだ、この家へ来ない時分からあったわけですからね。
井上 へえ。そんな古いものが、よくとってあったものですね。
けい 壊そうったってあなた、この頑丈さですもの。どうにもなりません。私もこの間蔵の中へ入ってみてびっくりしたのですがね。何が役に立つか、わかったものじゃありません。
井上 無駄なものってものはないもんですね。
清 あの、他に用意しておくものはございませんでしょうか。
けい そうですね。何しろ、勝手の違う人達のことだから私にもわからないよ。後は当人達が来てからのことにしましょう。
清 召し上りのもののことやなんか、如何《どう》すればよろしいのでしょうか。
けい まあまあ、そう、いっ時にいわないで下さい、そっちの方のことになると尚見当がつかないのだから。
清 では、このままにしておいて
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