知だという。それじゃ俺の思い違いだったのかと、俺は考え直した。お前に、女になくてはならないものが欠けていると、はっきり知ったのは、栄二が無断で家を飛び出したあの日さ。
けい あなた。それじゃあなたは、今迄そんな目で私をみてらしたのですか……。
伸太郎 止《よ》そう。過ぎた話だ。古い古い、昔のおとぎ話だ。(立上って)栄二の奴、今頃、どこで何をしていやがるのか……。(入る)
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けい、ぐったりなってしまう。
縁側の廊下から章介出て来る。黙って籐椅子に坐って、
間。
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章介 人間という奴は実によく間違いをする。まるで間違いをする為に何かするみたいだ。ところで、あんたもその間違い組かね。
けい (ぐっと首を上げて)いいえ、そんなことはありません。誰が選んでくれたのでもない、自分で選んで歩きだした道ですもの。間違いと知ったら自分で間違いでないようにしなくちゃ。
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     第四幕

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昭和三年中秋の午後。


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