ァもう少し私を助けてくれてもいいじゃありませんか。私がこんなに有難く思っているんだから。
章介 いやあ、私は人を助けたり人に有難く思われたりするのは一向好きじゃないんです。
しず ま、そう言わないで、私もこうして病身だし、それに何しろ跡取りがまだ若いし。
章介 私が伸ちゃんの年にはもう親父の代りに問屋通いをしていましたよ。
しず あなたの時代と今とは、時代が違いますから。
章介 姉さん、兄さんが伸太郎を外国語学校へ入れたのは一体いいことだったのですかね。あなたには伸ちゃんに家の仕事を、やらせてゆく気が一体あるんですか。
しず ……あの子は、頭もいいし、気立もやさしいし、親思いの子です。けれど……商売にむいているかどうかということになると、私にははっきりわからないのですよ。
章介 むいているかどうかじゃありません。やらせるつもりがあなたにあるかどうかですよ。
しず そりゃ、伸太郎は長男ですし、当然家の仕事を継いでもらわなくちゃならないと私は思っています。けれどあの身体とあの気性で、抜け目のない清国人を相手のかけ合いができるかどうか……。ま、今のところ古い店のものもいないと思うとつい……。
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