いて)帰ります。
しず あ。わかりましたね。よかったよかった。それじゃわき道しないで真直《まっす》ぐに帰えるんですよ。あの誰か送って上げましょうか。
けい いいえ、一人で大丈夫です。
しず そうですか。それじゃ気をつけてね。又お昼にでも暇があったら遊びにいらっしゃい。おばさんのおゆるしをいただいてね。
けい 御免なさい、さようなら。
しず さよなら。気をつけてね。
栄二 おい、待ちたまえ。(と追っかけて)これ、君に上げるよ。(と先刻の櫛を渡す)さ。
けい (黙って受取ってみているが、やがて又しくしく泣き出し、そのまま坐ってしまう)
栄二 君、君、どうしたんだい。
章介 どうしたんだね。え。
けい 私、帰れないんです。帰るところないんです。
しず まあ、どうして? あなた、おばさんのお家を黙って逃げ出して来たんでしょ。
けい 私が抜け出したの、おばさん知ってるんです。私がそうっと裏へ出て木戸をしめようとしたらおばさんが家の中から、大きな声でもう二度と帰ってくるんじゃないよって……。
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泣き倒れてしまう。
四人、顔を見合せている。
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