んとうなんです。おじさん、僕達は……この人のお父さんはおじさんと同じように戦争に出て戦死したんです。
章介 お父さんが戦死したからお前達のお客様でないという証拠になるかね。
栄二 ちがうよ。そんなこといってやしませんよ。この人はおばさんの家に引き取られていたんだけど、この家がひどい家なもんで、それで家を出て……。
章介 え? 家を出てどうしたというんだ。お前達の話はまるで現在の状態を説明する材料になっとらんぞ。落第、落第。
しず 章さん。そうお前のように笠にかかって物をいったってわかりゃしませんよ。みんなへどもどして話がごたごたするばかりですよ。(けい、しくしく泣き出す)あなた、なにも泣かなくってもいいんですよ。泣かないでおばさんにわけを話してごらんなさい。え。一体どうしたの。何だってそのおばさんの家を黙って出たりしたんですか。
けい 今日、お昼御飯をたべていてふっと思い出したんです。今日は私の誕生日なんです。お父さんが居たころ、お父さんはいつでもお誕生日には何処かのお料理屋へつれて行ってくれて私を床の間の前へ坐らせました。尾頭付《おかしらつき》の焼物を注文してお祝いしてくれるんです。
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