下げ]
伸太郎。
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伸太郎 栄二、どうしたんだ。大きな声出して。
栄二 兄さん、此奴《こいつ》、泥棒なんだ。あすこから入って来て、櫛とろうとしたんだ。僕がお母さんに上げる櫛持っていこうとしたんだ。お巡《まわ》りさん呼んで、警察にわたしてやるんだ。
けい あら、それだけは御免して、後生だから、お巡りさんに渡すのは堪忍して頂戴。ほら櫛はちゃんと此処へ返したじゃありませんか。私、他人の物盗ったことなんて、今迄に一度だってありゃしないのよ。今だって持ってく気なんてまるでなかったのよ。ただ、ちょっと髪にさしてみただけなんですもの。(伸太郎に)ねえ、あなたは私をお巡りさんに渡したりはなさらないわねえ。しないっていって、私、何でもあなたのしろっていうことするから。
伸太郎 まあまあ、君、そうぐんぐん押したら転んじまうよ。
けい 私、お巡りさんに連れていかれると困るのよ。きっとおばさんが呼び出されてくるわ。おばさんの家に帰されて、どんなひどい目に逢うかわからないんですもの。私、おばさんの家、黙って出て来ちゃったのよ。
伸太郎 君は、
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