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精三 あの……お食事の仕度がいいそうですからどうぞ……。
しず ああ、それはどうも。精三さんあなた今迄ずっとお勝手にいらしたのですか。
精三 はあ。
しず まあ、そんなこと、総子や咲やに任せておおきになればよろしいのに。男の方がお台所になぞお入りになるものじゃありませんよ。
精三 いや、いいんですよ。私はああいうことが嫌いじゃないんですから。ははは。(照れて入ってゆく)
章介 ここのうちには近くお目出度いことが起りそうですな。
しず ええ、そうだといいと思っているのですがね。総子がどういうつもりでいるんだか。
栄二 でも精三さんて、何だか変な人だな。
章介 どうして、洗濯や料理が自分で出来る御亭主なんてそうざらにないぜ。どうだね、ふみちゃん、ああいうのなら。
ふみ いやよ、私。
章介 叔父さんのような無精者でも厭、精三君のような働き者でもいや、それじゃ君は一体どういう人を旦那様にもちたいのかね。
ふみ どういう人でも駄目だわ。私、音楽学校へ入って声楽の勉強したいんだもの。
章介 へえ、すると紫の袴《はかま》で上野の森を自転車で乗り廻す組か。
ふみ そう。幸田延
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