と今夜もこの家庭|団欒《だんらん》の中で独り盃を含むことになるのかなあ。
しず 何だか物足りなくてお気の毒のようですね。でも、たまには家庭のお料理で食事をした方がいいんじゃないのですか。
章介 私は厭なんですよ。自分が独り者のせいですかね。あなたがたがこんな風に賑《にぎ》やかににこにこしていると、時々大丈夫ですかって尋ねたくなって困る。
栄二 そりゃ、どういうことですか。
章介 さあ、そう開き直られても困るんだが、人間の幸福だとか平和だとかいうものは一枚の紙の表だけみているようなもんだという気がするのだ。幸福で仲間のたくさんいる人間という物は、それだけ不幸で独りぽっちになる機会が多いんじゃないのかね。
ふみ そうかもしれないわ。でも、叔父さまが何時迄も独り身でいらしたり、お料理屋のお酒を呑んだりなさるのは、叔父さまが戦争に行ってらした間に、澄江おばさまが他所《よそ》へお嫁入りしてしまわれたからだと思うわ。
しず ふみちゃん。
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伸太郎(二十二)肖像画の額を抱えて、入って来る。
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