他へお廻りになるんでしょうか。
章介 そうですね。食べて行けと仰言《おっ》しゃれば御馳走になってもよろしいし、他へ廻れと言われれば廻っても悪くないんですがね。
総子 それじゃ困りますわ。食器の都合もありますし、叔父様が召し上るのならお酒のお仕度もしなくちゃならないんですもの。
章介 総子さん、君は仲々家庭的で思いやりがあっていい婦人だ。きっと倖《しあわ》せになりますよ。
総子 あら、でも私、こういう台所のことするの好きなんですもの。だけど困ってしまうわ。精三さんたらお台所へ入って来て、どうしてもお勝手を手伝って下さるってきかないんですよ。咲やと二人で充分だと、いくらいっても、大丈夫です、大丈夫ですなんて、何が大丈夫なんだかちっともわからないわ。
章介 男が台所へ入って来てお勝手を手伝うといったらそりゃ、私は御亭主になったらこんなにあなたを大事にしますってことさ。
総子 いやだわ、叔父さまったら、だって私はやせていて五尺三寸もあるのに、精三さんたら五尺二寸しかなくって、十八貫もあるんですもの。じゃ叔父様、家で済ましてらっしゃいますね。そのつもりでいますわ。(出てゆく)
章介 ヤレヤレする
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