けて見える、暫くあたりを見廻しているがけいに気がついて……
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栄二 あの……。
けい ……。
栄二 ちょっとお伺いしたいのですが。
けい はあ(と云ってちょっとふり向くがすぐ向うむいてしまう)
栄二 並河町六番地と言うのは確かこの辺だったのですね。
けい 六番地はこの辺でしたがネ、みんな焼けっちまいましたよ。
栄二 全くひどいもんですね、一軒残らずって言う感じですが……。
けい 一軒残らずですよ。何処もかしこもきれいさっぱり。残っているのは蔵の壁と金庫と石燈籠。(立上って壕舎の方へ歩き出しながら)どちらをおたずねなんですか。
栄二 いや、もうよしましょう。こう見渡す限りじゃ、わざわざ焼跡を探して歩くまでもありません。大体覚悟して来たんです。(切石に腰を降して煙草を出して火をつける)
けい (壕舎へ入ってしまおうかどうしようかと迷いながら)遠方からでもいらしたのですか。
栄二 三時間ほど前に着いたんですがね、盛岡からです。
けい 東京中の人がみんな田舎へ田舎へと落ちてゆくのにわざわざ田舎から出ていらっしゃる方もあるんで
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