[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
けい あの……。
伸太郎 (振返る)
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから3字下げ]
間。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
けい あの……。知栄が戻ります時……あなたも御一緒に、お帰りになって下さいませんか。
伸太郎 (嫌味でなく)この家には、まだ俺の戻ってくる部屋があるかね。
けい あなたのお部屋は、あなたが出てらした時のままになっております。
伸太郎 ……。憶えて、おこう……。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから3字下げ]
そういって歩き出す。襖《ふすま》の所迄行った所で、急にふらふらと倒れそうになる。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
けい (馳けよって)あなた、あなた、どうなさいました。
伸太郎 大丈夫だ。何でもない。
けい 大丈夫ですか。なんだか、お顔の色が真っ蒼ですよ。
伸太郎 大丈夫だ。もういい。もう……。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから3字下げ]
と歩き出し、又ふらふらする。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
けい 駄目じゃありませんか、あなた。(と椅子の所へつれてゆき)何処がお苦しいんです。此処ですか。帯をゆるめましょうか。よろしい? きよ! 井上さんいませんか。
伸太郎 (止めて)けい。いいんだ。大丈夫だよ。
けい そんなこと仰言しゃったって、これじゃあなた。きよ! あなた、ちょっとそのままにしていらっしゃいね。今お医者を。
伸太郎 (けいの手を引っ張って)いいんだ。いいんだ。このままにしていよう。けい、お前と、二人で、こうしていよう。な、じっとしていてくれ。お前と、二人で……。
けい あなた。あなた! あなた!
[#ここで字下げ終わり]
[#地から1字上げ](溶暗)
第五幕の二
[#ここから3字下げ]
堤家の焼け跡。
第一幕の一と同じ瞬間。栄二とけい一幕の一と同じ型で立っている。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
栄二 十……何年振りでしょうね、お変りがなくて結構でした。
けい ……あなたこそ……御無事で何よりでした。
栄二 (ゆっくりさっきの切石の方へ歩き出しながら)体は長い放浪生活で、相当鍛えてありましたからね。而《
前へ
次へ
全56ページ中53ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
森本 薫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング