たって追っつかないというので放ったらかしさ。放ったらかしにされるようじゃ、もうおしまいだね。(笑う)
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清、茶を淹《い》れてもってくる。
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伸太郎 あ、どうも……。
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清、去る。
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伸太郎 (ゆっくり茶を呑んで)この部屋は模様変えをしたのかね。
けい あの人達がくるのに、いくらかでもくつろげるかと思って、お蔵の中から昔のお道具を引張り出して来たのですが……。
伸太郎 ああ。そうか、道理で見憶えがあると思った……。よく虫にもならないで、もってるもんだね。
けい 紫檀《したん》だとか黒檀《こくたん》だとかいうものは、いつ迄たっても変らないものですね。
伸太郎 ふーむ、何だか此処にこうしていると妙な錯覚を起しそうだな。ずうっと以前に、ここで、こんな風にして、やっぱり茶を呑んでいたことがあるような……。
けい 私も……今、ふっとそんな気がいたしました……誰の考えることも同じようなことですね。
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間。
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伸太郎 (急に茶碗をおいて時計をみる)さあ。そろそろ行かないと……。
けい まあ、およろしいではございませんか。
伸太郎 いや、そうもしていられない。電車が四十分かかるからね。今から帰って丁度夕飯に間に合うくらいなのだ。
けい なんでしたらお夕飯を済ましていらしたら。
伸太郎 それでもいいが……しかしまだ用も残っているし。
けい ……左様でございますね。……
伸太郎 じゃ、その方のことはよろしくたのむよ。
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立上る。
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けい 承知いたしました。
伸太郎 家をたたんだり荷物を運んだり、大変だが……。(行きかけて)え? 何かいったかね。
けい は! いえ。
伸太郎 ふふ、つんぼの空耳か。
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と、いいながら、ちょっと周囲を見廻し、又行きかける。
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