#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] 妾、あの人に、いけなかったわ。ほんとに……いけなかったわ。
諏訪 そうじゃないわ。母さんが、悪かったの、御免なさいね。さ、もう……(ハンカチを出して渡す)あなた達にそう言われると母さんが困るじゃないの。妾はみんなの為にいいようにって考えただけなのよ。ほんとに何うすればよかったんでしょうね。こんな気持じゃァとても明日の晩は舞台で踊れやしないわ。どうしようかしら……。でももう、止めるわけにはゆかないし……。
未納 可哀そうに……。この家を出て行って、あの人一体何処へ行くんでしょう。あの人は、やっぱり妾の仲良しだわ。(泣き出す)心配だわ。
諏訪 泣かないで頂戴。さあ、二人共どうしたの、元気を出して頂戴。妾はまた何故あんなに腹を立ててしまったんだろう。そんな風に腹を立てることなんか無かったのに……。
未納 悪い人なんかじゃァないわ。みんなに、(しゃくり上げて)みんなに黙って行って了うなんか、あの人がいい人の証拠だと思うわ。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] あの人と、結婚しないなんて……言ったけれど悪かったわ。ほんとに。
未納 そうよ。妾だって、おしまいには……厭な人だと思ったりして……みんな間違いだわ……。
諏訪 母さん迄泣いて了うじゃないの……。こら、こんなに涙が出て来て……。(ハンカチを取り戻す)
[#下げて地より2字あきで]――幕――
[#下げて地より2字あきで](雑誌掲載は『劇作』昭和十年七月、初演は昭和二十五年五月)
底本:「現代日本文學大系83 森本薫・木下順二・田中千禾夫・飯沢匡集」筑摩書房
1970(昭和45)年4月5日初版第1刷発行
初出:「劇作」発行所名
1935(昭和10)年7月号
入力:伊藤時也
校正:松永正敏
2002年3月11日公開
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