そいつ》は、留守番なんかしとらんです。須貝さんと、一ん日テニスしてたんですよ。
未納 御自分だって、どっかへ歩きに行って来たじゃないの。
昌允 なに俺のはほんの、一寸の間だ。
鉄風 いかんねえ、どうも、これじゃァ。
諏訪 そんなんじゃァ、お土産は婢《ねえ》やの方へ回さなきゃァ。
昌允 婢やもいませんよ。
未納 伯母さんが病気だからって、急に帰っちゃったわ。
昌允 暇を取りたい模様でしたよ。ひょっとすると、あれはもう、還って来ないつもりかもしれないな。
諏訪 あらそう、困ったわね。
鉄風 先月から給料を上げる約束だったのに、上げてやらなかったろう。
諏訪 だけど、今迄だって他所《よそ》のよりは、ずっといいのよ。
鉄風 しかし約束したんだから、向うじゃァ当にしてるよ。
諏訪 あんまり言いなりになるようで莫迦々々しいんだもの、妾達、始終家を空けるもんで、足許《あしもと》をみてるんだわ。きっとそうよ。
昌允 みられたって、仕様がないな、それは。
鉄風 少しくらい無理を言ったって、我慢しておくんだな。馴れた奴の方が何かと便利だと思うよ、俺は。
諏訪 じゃ、どうすればいいと被仰《おっしゃ》るの、そ
前へ
次へ
全102ページ中32ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
森本 薫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング