のことだ。ぐずぐずしてると、逃げられるぞ。
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間。
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未納 妾、須貝さんを、追掛けてなんかいないからいい、逃げられたって。
昌允 そうか、しかし俺にはそうみえるがね。追掛けていないかもしれないが、そういう気はあるだろう。それなら、追掛けてみた方がはっきりしている。
未納 そんなの、ないわよ、女が男を追っかけるなんて。
昌允 そんなに習慣を重んじるお前でもないじゃないか。
未納 妾は厭よ、そんなの。須貝さんが、妾を嫌いだったら、妾だって嫌いだわ。
昌允 まだそこ迄は行ってないさ。
未納 だったら妾も、じいっとしてるより他、仕方がないじゃないの。
昌允 しかし、競馬とは違うからな。出発点を定《き》めといて、二人が一緒に走り出すものじゃァないだろう。何方かが先に走り出すさ。その方が負だろう。威張ってみたって始まらないよ。
未納 心配して呉《く》れないだっていいの。妾、別に、どうしてもあの人でなくちゃ死ぬ、と言うほどのわけじゃないのよ。そんなに気張って考えなくったっていいと思うわ。
昌允 それはそうだ。ただ、実際の問題として、そう簡単に行くか。

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