んなこと言って。
鉄風 どうするも何も、いないものは仕方がないな。
未納 お給金を上げてやるからって言ってやれば還って来ると思うわ。
諏訪 伯母さんが病気なんて、嘘よ、きっと。
鉄風 その辺のところは何とも言えないな。
諏訪 じゃァ、あなた、そ言ってやっといて下さる。
鉄風 俺がかい!
諏訪 ええ。
鉄風 しかし、どうも、俺が手紙出すのは変だよ。君から出した方が……。
諏訪 妾だっておかしいわ。負かされるみたようで、厭だわ。
鉄風 事実負かされているのだぜ。
諏訪 だって……じゃ未納ちゃん!
未納 妾、書けないわ、どう言う風に書くの。
諏訪 約束通り、お給金を上げたげるからって書けばいいのよ。
未納 それだけ? 他になんにも……。
鉄風 学校で手紙の書き方くらい教わっとるんだろう。(諏訪に)やはりこれは、君が書いた方がいいんじゃないかね。本来君の責任範囲の仕事だよ。それに原因から言っても……。
諏訪 でもあなただって、うっちゃっとけって、賛成したじゃありませんか。
鉄風 しかし、それは……。
昌允 うるさいな、いい加減にしたらどうです。(立上って表の方へ出ていく)
諏訪 美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]さん、まだ帰ってないの。
未納 もうさっき、帰ったわ。お姉さん! 母さん達帰ってらしっててよ。(土産の包みを解く)
諏訪 昌さん、出るの。お茶でもいれない?
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昌允、知らん顔して出てしまう。
未納くすくす笑う。
[#ここで字下げ終わり]
鉄風 こら、どうしたんだ。
未納 いいの。お兄さん! (笑う)お兄さんたら! しらん顔なんかして!
[#ここから3字下げ]
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]
[#ここで字下げ終わり]
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] お帰んなさい。
鉄風 ああ、今日は、どうも御苦労だったな。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] 厭なお父さん。(笑う)
諏訪 あなた、どうかしたの、目の縁。脹《は》れてるんじゃァない?
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] (とぼけて)いいえ、そうかしら。
未納 泣いたの?
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] 違うわよ。
未納 (ふざけて)母さん、妾は?
諏訪 妾って、何よ?
未納 妾、泣いてたみたいに見えない?
鉄風 お腹でも痛かったのか?
未納 (美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]の肩を抱いて)お父さんの莫迦。お姉さん、妾とうとう泣いちゃった。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] ?
未納 勘忍してね。さっき言ったこと。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] 何のこと、それ。
未納 やよ、困らしちゃァ。ほら、さっきね、言ったでしょう、いけないこと。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] そうじゃないのよ。そんなことじゃないの。だから……。
未納 あら、じゃァなぜ、泣いたりなんか……。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] (狼狽して)何でもないの。ほんとになんでもないのよ。妾泣いたりなんかしやしないわ。厭! そんなに顔を覗くの(気を換えて)そんな心配して、あなた泣いたの、厭な人ね。(笑う)
未納 そうじゃ、ないの、妾……。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] そう。(がっかりする)そんなら……。
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間。
[#ここで字下げ終わり]
鉄風 (包の中から、菓子を取り出して、頬ばりながら)一向に要領を得んね。(諏訪に)同性愛じゃないか、二人は。
諏訪 厭ですよ、つまらない事言わないで頂戴。
鉄風 少し変だとは思わないかい。
諏訪 少し変なのは、昌さんの方ですわ。
鉄風 あれは、昔からああだ。
諏訪 いいえ、以前はそうでもなかったわ。ずっと前は……。
鉄風 そうじゃなかったって、どうじゃなかったんだ。
諏訪 此の頃、ずうっと、妾達から離れるよう、離れるようにしてるじゃありませんか。
鉄風 そうかねえ。一向俺は気がつかんが。
諏訪 妾は気がついてるわ。美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]さんお茶でもいれない。
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美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]、行きかける。
[#ここで字下げ終わり]
諏訪 ああ、こんなもの、もう要らないでしょう。持ってっといたら如何。それから妾、パンがあったら少し戴こうかしら。
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美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]、グラス、シェーカーなどを持って出て行こうとする。
未納、蹤《つ》いて行こうとする。
[#ここで字下げ終わり]
美※[#「にんべん+予」、第
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