3水準1−14−11] いいわ。妾がしてくる。
未納 手伝うわ。妾、ちょっとお姉さんに話があるのよ。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] あら、何の話。
未納 あっちで言うから。さあ(美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]を押すようにして出ていく)
鉄風 もう、みんな年頃だから、少しずつ変なんだな。どれからでも、片《かた》っ端《ぱし》から片をつけて行かなくちゃいかんよ。
諏訪 ええ、だからあなたも、しっかりして下さいよ。
鉄風 俺は、どうも、そう言うことは不得手《ふえて》だよ。万事、君に一任する。
諏訪 一任なんかして戴かなくってもよござんす。だって共同責任じゃありませんか。妾だって、困るわ。こんなこと、あんまり馴れてないんだもの。
鉄風 ダンスの流儀でやって貰いたい。独創的でいいよ。
諏訪 そう、うまく行くもんですか。妾ね、未納ちゃんに頼まれてるんだけど……須貝さんに、あの子を貰って戴こうと思うの、どう。
鉄風 未納がかい。子供だと思ってたが……素速《すば》しこい奴だ。しかし、出来るなら、美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]の方から先にしてほしいな。順序だ。
諏訪 どっちからでもいいじゃありませんか、そんなこと。
鉄風 わかったよ。よろしくやってくれ、じゃァ。
諏訪 妾、今日話してよ。区切りがついていいと思うの。明日《あした》っから、あの人も一本で仕事をするんだしするから。
鉄風 そうか、しかし無理には言わないようにしてくれ、恩を売るようにみえると厭だよ。俺は。まあ、なんだ……それとなく……。
[#ここから3字下げ]
須貝。
[#ここで字下げ終わり]
諏訪 やあ、お帰りでしたか先生。
鉄風 やあ。今、ああ。(慌てて二階へ上って行こうとする)
諏訪 あら、そんなに逃げないで、此処に居て下さいよ、妾一人じゃ心細いわ。
鉄風 うん、しかし、俺は一寸。……(なんとか云って上って了う)
諏訪 変な人……。須貝さん、お掛けにならない? 此処へ来て。
須貝 ええ。僕、一寸|是《これ》から撮影所へ行ってみようと思うんですが。
諏訪 あら、今日は何にも仕事ないんでしょう。
須貝 それは、ええ、しかし道具を一寸変えたいと思うんで、その都合をみて来ようと思うんですが。新米は何だかそわそわしちゃって……。
諏訪 まあ。それはそれとして、後になさいな。あなたにね……お話があるの。
須貝 僕に? (戻って来て)伺いましょう。(坐る)何です。
諏訪 厭な人、何ですだなんて、そんな風に訊かれると言えやしない。
須貝 じゃあ、黙ってましょう。
諏訪 駄目よ、黙ってちゃ、お話にならないわ。
須貝 面倒なんですね。どうでもしますよ、しろと被仰って下さい。
諏訪 ぼつぼつ話すわ、いろんなこと言ってる間にね。
須貝 結構です。奥さんと、いろいろお話するんならその方だけでも結構ですよ、僕は。
諏訪 まあ! うまいわね。
須貝 まだまだうまいことも言えるんですよ、これで。
諏訪 そのくらいで丁度いいところだわ。
須貝 序手《ついで》ですから、も少し聞いて下さると、いい都合なんだが。
諏訪 厭! お芝居のお相手なんて御免よ。
須貝 ああ、承知しました。
諏訪 あなたも、とうとう大人になっちゃったわね。
須貝 お蔭様で……。
諏訪 鉄風には感謝なさいよ。
須貝 それから、奥さんにも。
諏訪 勿論よ。感謝の序手《ついで》に妾の言いつけをお聴きなさいな。
須貝 唯一つのことの他は……大概のことなら。
諏訪 もう、奥さんを持ったらどう。
須貝 いかん。それが唯一つのことです。
諏訪 年上の者の言うことはお聴きになっといた方がよろしくてよ。撮影所なんかにいるとみんな生活が駄目になって了うわよ。いいかげんにはっきり身を固めないと。妾は悪いことは言やしません。
須貝 どうも奥さん、折角ですが、この話はお預けします。僕はまだ、そう言うことを考えてみたこともないんですからね。
諏訪 だって、あなたもう、ちっとも早過ぎやしなくってよ。男だって女だって、そう言って呉れる人がある間にちゃんとしとかなくちゃ、だあれも構って呉れなくなってからでは遅すぎてよ。
須貝 遅過ぎても構わんです。兎に角、僕は結婚したくありませんね。も少し、ひとりでのうのうさせといて下さい。今から、奥さんを貰っちゃ、可哀そうですよ。勿論僕がですよ。
諏訪 あなたは知らないからそんなこと言っているのよ。奥さんも一寸いいものよ。それに妾まだ、誰と結婚なさいともなんとも言ってやしないじゃないの。そんなに慌てて逃げを打つことはないと思うわ。
須貝 誰だって相手に依るんじゃないんですから、きかなくったっていいです。
諏訪 (笑って)そんなに少年みたいに羞《はずか》しがることってありますか、ええ?
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