ながら、二階を見て)婢やは、いないんですよ。
諏訪 そうね、妾、うっかりしていた。(降りて来る)
未納 何か御用!
諏訪 いいの、御飯にして貰おうと思って……。
昌允 御飯食べるんですか?
諏訪 どうして?
昌允 僕は欲しくない。
諏訪 喰べなきゃ毒だわ。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] 妾達で、つくってよ。(出て行く)
諏訪 いいわ、何処かへそう言いましょう。
未納 妾だって出来るわ。いいわ、母さん。(出て行く)
[#ここから3字下げ]
間。
[#ここで字下げ終わり]
諏訪 やっと、日が落ちたんだわね。この頃は日が長いものだから……(窓を押し開いて)ああいい気持!
昌允 気分はどうです。
諏訪 ありがと、大体いいわ。
昌允 そりゃいい具合でした。
諏訪 頭の芯《しん》が、少し痛いの。
昌允 いけませんね。
諏訪 胸も苦しいのよ。
昌允 ――。
諏訪 足もなんだか、ひどく疲れたような具合だわ。
昌允 あんまり騒ぐからですよ。
諏訪 あなただってそうじゃないの。
昌允 僕は……。
諏訪 お父さんと喧嘩をおっぱじめたり……。
昌允 何だって母さんは、あんなことを親爺に言ったんです。
諏訪 お父さんに?
昌允 親爺にですよ。可哀想じゃ、ありませんか。
諏訪 一番可哀想なのは母さんだわ。
昌允 親爺、茫然としている。
諏訪 妾だってそうだわ。
昌允 そりゃ、僕だって……。
諏訪 御免なさい。母さん昂奮しちゃったもんだから。
昌允 昂奮はいいけれど、母さんは、ほんとに須貝さんを追い出すつもりなんですか。
諏訪 それは、追い出すと言うと、角《かど》だつけれど、どっかへ移って貰いたいわ、その方がいいと思わない。
昌允 別に、その方がいい、と言う理由もないと思うけれど……。
諏訪 何故。今、このままで、あの人にずっといて貰ったとしたら、どう。家中のものが、誰も彼も、気が落ちつかないじゃないの、いやだわ、そんなこと……。
昌允 それは、このまま打《うっち》ゃっとけばそうだろうけれど、あの人の言うとおり、美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]と一緒にして了えばそれでいい話じゃないですか。
諏訪 それは、出来ないわ。そんなことは出来ないのよ、妾には。
昌允 僕や、未納への心使いだったら、つまらんことですよ。僕達だって子供じゃ、ないんですから。(くしゃみ、二
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