目よ、お姉さん。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] しらない。(行こうとする)
未納 (手を掴《つか》んで)逃げちゃ駄目よ。お姉さん此の頃、須貝さんの前へ来ると、何かもじもじしちゃって物言わないでしょ、ちゃんとわかってたわ。
須貝 おい。
未納 おい、だなんてェ。嬉しそうよ。にこにこしてるわ。
須貝 (慌てて)止せやい。じゃァ、どう言う顔をすればいいんだい、こういう場合。
未納 駄目々々、どんな顔したって駄目。
須貝 あなたの出鱈目なんか、笑って黙殺する他ないさ。(美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]に)そうですね。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] え、ほんとに……。
未納 わかったわ。須貝さんは美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]姉さんが好きなんだわ、それからお姉さんだって……ずっと前から、そうだと思ってた、妾。やっぱりそうだった。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] お止しなさいったら!
須貝 うっちゃっときましょう。下手《へた》に相手になると、いくらでも調子がつくばかりですよ。こう言う風に猛っている時は相手になる方が負けです。
未納 なんか言って済まし込まないでおいてよ。せつない気がするんだから。そこでと、えい遊んで来ようっと。妾なんかつまらないな。(川の方へ出て行く。外で)須貝さん。須貝君!
須貝 (出て行きかかるが、思い直して)なんだ!
未納 あ、後でいいや。(去る)
須貝 (外をみながら)ああ走る走る。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] 風みたようだわ。
[#ここから3字下げ]
間。
[#ここで字下げ終わり]
須貝 どうも、大変なことになっちゃって、済みませんでしたね。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] いいえ、(笑う)そんなこと……妾、なんとも……
須貝 あの人の前じゃあ、うっかりしたことは言えませんね。年が下だと思って安心してると妙なところで叩《たた》きつけられて了《しま》いますよ。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] そう言うところが、ありますの。妾なんかだと、ああはゆきませんわ。
須貝 あなたはそれでいいです。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] そうでしょうか。
須貝 女の人が誰も彼も、未納君並だ
前へ 次へ
全51ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
森本 薫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング