んか妾は聴きゃしないのよ。妾は、どうしてもあの人に出て行って貰うのよ。妾はもう、あの人を信用することは出来ないんだわ。あなた方もそうよ。あなた方の中、誰があの人を愛して、誰があの人を信用したって、母さんはもう、あの人を信用することは出来ないのよ。あの人は軽薄で、嘘つきで、浮気者で、信用のない兵六玉《ひょうろくだま》よ。
鉄風 中々見事な弁舌だ。しかし、例えばあの人間を此処の家から出て貰うとしてもだね、どう言う理由で出て貰うんだね。まさか俺の娘が二人とも君を愛している、そういう状態では家庭の平均が保てんから出て行って呉れ、そう言うわけにも行かんだろう。それに、もともと俺にしたって、君にしたって、二人の中どちらかは須貝に貰って貰うつもりでいたんだろう。
諏訪 二人の中一人ですわ。二人共じゃありませんのよ。それも、うまく行った場合の話じゃありませんか。今の場合はちっとも家ん中がうまく行ってやしないわ。妾は未納をと思っているのに、須貝さんは美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]を欲しいと言う。その美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]を昌さんが愛しているんだと言う。おまけに三人が三人で、いろんなことを……妾達にはとても、わかんないようなことを考えたり、したりしてるんだわ。妾には我慢がならないわ、こんなこと。
鉄風 一体、これは家の若い連中がいかんよ。大体お前達は物事を慎重に取扱い過ぎるのかね。それともあんまり不真面目に見過ぎているのかね。お前達の行動は実に不可解だ。不可解極まる。まるで、相手の先手を打つことばかりに苦心しているようじゃないか。
未納 妾達不真面目じゃないわ。妾だって物事を考えないでする方じゃないのよ。ただ結果の方が妾達より先回りしてばかりいるんだわ。妾だって困るわ。こんなんなら、始めから何にもしなかった方がずっと、気が楽で愉《たの》しかったのよ。
鉄風 一体若い者って言うものは、物事をするのに、もっと情熱と誠意がなければ、いかんよ。お前達にはそれがない。若い者にあるべき新鮮さ、熱情、烈しさ、懸命さ、そう言うものがない。それでいて、一通り心得たような顔つきをしているのはどういうものかね。
昌允 と言ったところで、僕達にはお父さんみたように、美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]のお母さんと、いきなり結婚して僕達を面喰わせたり
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