終わり]
未納 乱暴だわ。息が詰るじゃないの。
昌允 その方が余計なこと喋らなくっていいだろう。
未納 妾は、そんなつもりじゃなかったのよ。妾はもう、とても駄目だと思って観念してたんだわ。
昌允 それだったらそれでいいじゃないか。
未納 でもお兄さんのことだって、一遍は言っといたげようと思っただけよ。その他のことなんて考えてやしなかった。
昌允 そうすると、俺は……お前に礼を言わなくちゃァならないことになるのか。
未納 首を締めるほどのことじゃないと思うわ、兎に角。
昌允 しかし美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]さん、も少し考えた方がいいと思うね、これは。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] ――。
昌允 一時の気持の動きだけで、こんなことをきめると、後で困るのは自分だけだよ。僕にしたって後悔されるよりは今のままの方が、結局いいからね。それに……僕の方ではもう……気持の上では、ある区切りまで来てるんだから……。(くしゃみ)あなたは、自分の、好きなことを……。
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美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]、黙って唇を噛んでいる。
[#ここで字下げ終わり]
未納 (呟くように)妾は、今日何てへまばかり、やってるんだろう。言うことすることみんな的が外《はず》れてるんだもの、いっそおかしいくらいだわ。自分独りで悲しんだり、喜んだりして……。
諏訪 妾、もう黙っていられないわ。こんな面倒なことって、一体誰から起ったことなの。みんな須貝さんからでしょう。あなた、もうあの人にこの家を出て戴きましょう。
鉄風 しかし、俺が考えるには、この問題は別に、須貝の方で不都合《ふつごう》な点は無いように思うがね。問題を面倒にしているのは、主として家の連中じゃァないのかい。
諏訪 あなたのように落ちつき返っていちゃ、何だって誰にだって罪も責任も起りゃしないわ。だって須貝さんさえ居なかったら、何もこんないろんな面倒なことは起りようがないじゃありませんか。
鉄風 しかし、事実は須貝はいたんだし、いろんな面倒なことは起ってしまったのだ。そう言う意味で須貝の責任を問うと言うことになると、ただ、須貝がこの世に生れたと言うことがいかんということになる。人間は誰だってこの世に生れたと言うだけの理由で非難をされる責任は無いさ。
諏訪 あなたの演説な
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