と言うから放っておいたんだが、お前にも、考えてる人があるなら、この際言ってみないか。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] ――。
鉄風 考え込むことはないよ。みんな、それで気が楽になることだ。未納の奴だけが、為《し》たいようにするのは不公平だからな。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] ええ……妾……でも。
鉄風 (得意で)叱りゃしないよ。約束してもいい。俺は公平な処置が好きだ。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] 言うわ。妾……お兄さん……。
鉄風 (茫然)一寸……昌允か。
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間。
[#ここで字下げ終わり]
鉄風 俺は、出鱈目は言わんよ。しかし、稍々《やや》手近過ぎた形だね。
[#ここから3字下げ]
諏訪が答えない間に、未納。
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未納 おや、みんな揃ってるのね。お父さん、今夜、踊らない。いいでしょう。
鉄風 う……そりゃ、お前達が踊るぶんにゃァ異存はないさ。
未納 母さん、踊って呉れる。お友だち呼んで来ていい?
鉄風 無茶を言うな。母さんは今日は、早く寝るよ。
未納 だってェ、そいじゃァ、つまんないじゃないの。肝腎《かんじん》の母さんが踊って呉れなきゃァ。妾達ばかりいくら……。
鉄風 お前達は踊るのが遊びだが、母さんは踊るのは仕事だ。家へ帰ってまで踊らされちゃァたまらないよ。
未納 ねえ、母さん! 踊りましょうよ、よう。
諏訪 今夜はかんにんしてね。母さん少し、頭痛よ。心臓も苦しいの。
未納 あらそう。いけないわね。どんな具合なの。熱でも、あるんじゃない。お医者呼ばなくっていいの。
諏訪 いえ。そんなでもないの。だから、お医者さんなんて、いいのよ。ほんのね、少し。
鉄風 そりゃ、いかんな。今日なんか、あまり出歩くのは宜《よろ》しくなかった。日射病じゃないかな。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] 日射病だなんてまだ六月ですよ。
鉄風 六月と言っても、もう七月だ。
未納 莫迦々々しい。日射病なんて馬のする病気じゃないの。
鉄風 兎に角、お前は常識が無さ過ぎると言うんだ。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] あんまり、いろんなことで、気を使い過ぎたんじゃないかしら。公演のことや、なんか……そう言うことで。
諏訪 え、ええ、そうかもしれないわ。
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