未納 そうだわ、きっとそうよ、大事にしなくちゃァ……。
鉄風 神経過労だね、すると。
諏訪 後生だから一々名前をつけないで下さいな。(立ち上る。部屋の隅へ行ってレコードをかける。低い音)あなたの話を聞いてるとよけい苛《い》ら苛《い》らするわよ。
未納 妾、素敵なタンゴ、憶えて来たんだがなあ。
鉄風 妙なレヴュ小屋をうろつくのは少し控えて貰いたいものだ。
未納 憚《はばか》り……だわ。
鉄風 それにお前のは踊りとは言えんよ。あれは体操だ。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] まあ、ひどい。
未納 いいわ。自分が巧く踊れないもんで、仲間が欲しいんだわ。
[#ここから3字下げ]
間。
[#ここで字下げ終わり]
未納 (一寸レコードについて口の中で唄う)母さん、昨晩言った話ね。
諏訪 (警戒して)え。
未納 あれ、ちょっと止《や》めにしといてね。
諏訪 どうして。
未納 どうしてってことないの。でも、考えてみたいの。
諏訪 だって、考えた上のことなんでしょ。
未納 も一度よ、も一度ね。妾うっかりしていたことがあるの。
鉄風 しかし、それは少し遅過ぎたようだね。
未納 (一本喰わせる気で)お父さんの知らないことよ。
鉄風 ところが知れずにおらんから面白い。
未納 母さん、お父さんに言っちゃったの。
鉄風 それどころじゃァないさ。
未納 それじゃ……そう、もう済んじゃったの。
諏訪 早い方がいいと思ったから……。でもそんなにはっきりした話じゃないのよ。
未納 どうしましょう。困っちゃった、妾……。
諏訪 母さんの方が困ってるのよ。
未納 それは、そうだけど……。妾……妾ね。
鉄風 お前が言い出しといて、お前が困るのは可笑しいよ。きまりが悪いんだろう。
未納 (思い切って)お姉さん!
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] (泰然)なあに。
未納 (出鼻をくじかれて)母さん。ほんとはね、妾よりお姉さんの方が須貝さんを好きなのよ。
諏訪 だって、未納ちゃん!
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] 何言ってるの、未納ちゃん。
鉄風 お前は間違ってるよ、未納。
}(同時に)[#「}(同時に)」は前2行の中央、下に]
未納 ほんとよ、冗談じゃないのよ。だから昨晩の話は取消しよ。後は母さん達いいようにして頂戴。
諏訪 でもそんなことはなにも。
未納
前へ
次へ
全51ページ中30ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
森本 薫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング