いいわ、あたしが慥えて来よう。あの人、何《ど》んな薬にでも中毒するんですって、あんなのもないわねえ。(去る)
真紀 (坐りながら)あれだけがあの人の取柄《とりえ》。
収 一つ、身についた取柄があれば、大したものじゃありませんか。僕みたようなのもいるんだから。
真紀 あなたはそうでもないらしい。
収 何故?
真紀 あさ子なんか、始終《しょっちゅう》讃《ほ》めてますよ。
収 あれは言えないんだ。悪口なんか、考えつかないんですよ。
真紀 悪口さえ一人前言えないってことになるじゃないの。
収 自慢してもいいと思うけれど……。
真紀 そうだろうか、どうして。
収 理由なく。いや、有りますよ、理由は。
真紀 好みの問題ね。
収 そうとばかりは言い切れないな。
真紀 他人事だからよ。あんたは。
収 まあ、そう言って言えないこともないけれど。
真紀 世間ひととおりの事をさ、あんまり知らなさすぎると思うの。それが……。
収 しかし、何処へ出してもそのままで押しとおせる世間知らずってのはねえ……。
真紀 ああ。
収 いいんですよ、そりゃ、素的《すてき》じゃありませんか。
真紀 そう言うと、あなたは知ってる
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