。
真紀 あらそう。御苦労さま。何か……。
収 用じゃないんです。(包を出して)礼儀上|到来物《とうらいもの》ですって言うんだって、中味は「藤屋」の……。
あさ子 羊かん?
[#ここから3字下げ]
収、真紀、「おや」と云う顔。
[#ここで字下げ終わり]
真紀 (あさ子に)何か言って?
あさ子 (笑って)いいえ。
真紀 母さん、相変らずお忙がしい?
収 そう云ってますね。口癖です。
真紀 性分ね。此の頃ちっとも会わないので淋《さび》しくって仕様がない。ちっとは遊びに来るように云っといて下さいよ。
収 向うでも、そ言ってましたよ。あちらは閑人《ひまじん》だからって。
真紀 閑人? ひどい事言うね。家は商売があるから……何と言ってもあなたのお家の方がやっぱり閑よ。
収 そりゃ、そうですね。でもやっぱり。何《なん》か彼《かん》か言ってますよ。
あさ子 収さん。坐らないことに決めたの?
収 う……うん。僕もそう思ってるんだが、一向《いっこう》お許しが出ないし、それに場所も(あたりを見廻す)
真紀 御免々々。うっかり。(立ち上る)
収 よろしよろし。(ピアノの前に行き、その椅子を提《さ》げてくる)
前へ
次へ
全38ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
森本 薫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング