「いや、昨夜は御心配をかけてすまなかった」
「なに、別段心配はせんがね、ただ時日が迫っているので、何かまた異変でも生じた時、君が居合せないために、後で臍《ほぞ》を噛むようなことがあってはならぬと、ただそれだけを案じたよ」
「ありがとう、母がまた癪《しゃく》を起してね、まあ、これが最後だと思って、宵終《よっぴて》ついていて看護してきたよ」
「で、別にたいしたことはないのか」
「いや、いつもの持病だ。気がかりなことはないさ」と言いながら、小平太は極《きま》りの悪そうに、こそこそ自分の居間へはいった。
 同志から疑いの眼で見られるのも辛いが、それよりも、この期《ご》に及んでなおその前を繕《つくろ》うために、同志を欺《あざむ》かねばならぬということが、小平太にはいかにも心苦しかった。そうだ、これはどうしても頭領に届けでるほかはない。一刻も早く届け出でて、その御裁可《ごさいか》を得ておく。もっとも、こんなことまで太夫《たゆう》の耳に入れるのは、いかがとも思われないではないが、たとい女には関係しても、小山田などと一つでない証拠を見せるためには、思いきって何もかも白状してしまうほかない。そうすれば
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