れなかった。中田理平次一人の時は、まだしも考えなおした。が、その後からまた二人の反逆者が出た。しかも、自分が朝夕顔を合せていた者の中から出た。彼は考えこまずにはいられなかった。
「二人はさんざ勘平から恥じしめられた。が、その代りに命を助かった。そうだ、恥を忍べば、まだ助かる道はあるのだ」
 そう思って、小平太は自分ながらはっとした。武士が命を惜しむの、卑怯者だのと言われたらそれまでだ。それが最後の宣告である。彼はまだそれを超越するほど頽廃的《たいはいてき》になってもいなければ、またそれほど人として悪摺《わるず》れてもいなかった。
「そうだ、高田郡兵衛が最初の脱盟者になって、俺が最後の脱盟者になる? そんなことはありえない、断じてあってはならない!」
 彼は一晩中|輾々反側《てんてんはんそく》して、やっと夜明け方にうとうととした。

     九

 師走《しわす》の二日には、深川八幡前の一|旗亭《きてい》に、頼母子講《たのもしこう》の取立てと称して、一同集合することになっていた。討入前の重大な会議のこととて、その日は安兵衛も、勘平も、小平太も打揃《うちそろ》うて午過ぎから出かけた。
 
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