門も言った。「御苦労だが、そう願うことにしよう。ところで、小平太どのの内偵は、拙者から久右衛門殿(池田久右衛門、山科以来大石の変名)に伝えようが、それよりもお身自身の口から申しあげた方がいいかもしれない。どうだな、これからすぐに石町へ同行しては?」
「は、私が参った方がよろしければ、すぐに御同道いたします」
「ああ、そうなさい。それから横川氏、貴公もその文箱をとどけたら、あちらへ参られい。このたびのことは、一つはお手前の働きでもあるから、一足先へ行って、拙者から太夫によく申しあげておくよ」
「恐れ入りました。それでは、いずれ後ほど御意《ぎょい》を得ることにしまして、私は一走り行ってまいります」と、勘平は会釈《えしゃく》して立ち上った。ちょっと間を置いて、忠左衛門も小平太を伴《つ》れてその家を出た。
二人が小山屋の隠宅へ着いたのは、日脚の短い時節とて、もうそろそろ灯火《あかり》の点《つ》くころであった。寒がりの内蔵助は、上《かみ》の間の行灯《あんどん》の影に、火桶を前にして、一人物案じ顔に坐っていた。で、まず忠左衛門から口を切って、小平太が今日吉良邸へ入《い》りこむようになった次第を紹
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