読みながら歩いているうちに、不意に背後《うしろ》で「わあッ!」という声がして、五六人の子供が彼のそばをばたばたと駈《か》けだして行った。一人の吹矢を持った男の子の後から、大勢がいっしょになって駈けだして行くのだ。彼はまた胆《きも》を潰した。が、それと分ると、まあ、あそこにぐずぐずしていないで、いい塩梅《あんばい》だと思った。そのうちにとうとう表門まで来てしまった。で、
「どうもありがとう存じます、行って参《さん》じました」と、もう一度門番に挨拶《あいさつ》をして、街の上へ出た。
六
小平太は一丁ばかり来て、始めて吾に返ったように息を吐《つ》いた。別段取りたてて吹聴《ふいちょう》するようなこともないが、使命だけは無事に果した。これだけ見てくれば、同志の前に面目の立たぬようなこともあるまい。そう思って、彼はまた駈《か》けだすようにして林町の宿へ帰った。宿には安兵衛、勘平の両人はいうまでもなく、吉田忠左衛門の田口一真まで来合せて、彼の帰宅《かえり》を待っていた。気早の勘平は、足音を聞くや、縁先まで駈けだしてきて、
「おお帰ってきたな、首尾《しゅび》はどうだった?」と、いきなり
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