かねて連盟の副頭領とも恃《たの》まれていた千石取りの番頭奥野|将監《しょうげん》、同じく河村伝兵衛以下六十余人の徒輩《ともがら》が、いよいよ大石の東下《とうげ》と聞いて、卑怯《ひきょう》にも誓約に背《そむ》いて連盟を脱退したことが判明した。もっとも、その中には、前から態度の怪しかったものもあるにはあった。が、内蔵助の叔父小山源五右衛門、従弟《じゅうてい》進藤源四郎など、義理にも抜けられない者どもまで、口実《こうじつ》を設けて同行を肯《がえ》んじなかったと聞いては、先着の同志も惘《あき》れて物が言えなかった。中にも、血気の横川勘平のごときは、
「あいつらもともと汚い奴輩《やつばら》だ。この春討って捨てようと思ったのに、手延びにして残念だ!」と、歯噛みをして口惜しがった。
 が、神崎与五郎はそばからそれを宥《なだ》めるように、
「なに、今になって退《の》くような奴らは、皆大学様の御左右《ごさう》をうかがって、万一お家お取立てになった場合、真先にお見出しに預《あず》かろうという了簡《りょうけん》から、心にもない義盟に加わってきたのだ。そんな奴らが何人いたって、まさかの時のお役に立つものでない
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