な》りこんだほどの気鋭の士であったから、偵察の任務についても人一倍大胆に働いた。小平太も安兵衛だの勘平だのという気性の勝った連中といっしょにいては、一人ぐずぐずしてはいられない。それに同宿の士の中では比較的小身者であっただけに、横川とはことに仲よくしていたので、同じように仲間小者《ちゅうげんこもの》に身を扮《やつ》して、仇家の偵察にも従事すれば、江戸じゅうを走り廻って、諸所に散在している同士の間に聯絡《れんらく》をも取っていた。で、誰一人小平太の心底を疑うものもなければ、彼自身もそれを疑うような心は微塵《みじん》もなかった。
 ところで、十月の半《なかば》ごろまでには、後れて上方を発足した原総右衛門、小野寺十内、間喜兵衛なぞの領袖株《りょうしゅうかぶ》老人連も、岡島|八十《やそ》左|衛門《えもん》、貝賀弥左衛門なぞといっしょに、前後して、江戸へ着いた。最も後れた中村清右衛門、鈴田重八の両人も、十月の三十日には江戸へ入って、安兵衛の長江長左衛門の借宅に同宿することとなった。中村は小山田庄左衛門なぞと同じく百五十石取りの上士で、鈴田は三十石の扶持米を頂いていたものであった。
 頭領大石内蔵
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