」と鈴《りん》の音が聞えてきた。
「そうだ、今日はおしおの母の三七日《みなぬか》だ! 仏壇にお灯《ひ》でもあげているのだな」
が、おしおは下に坐ったまま、なかなか立ち上らない。小平太は窓のそばへ寄って覗《のぞ》いてみようかとも思ったが、長屋の者が水汲《みずく》みにでも出て、見つけられたらというような気がして、じっと我慢して立っていた。が、たまらなくなって、一歩ずつだんだん裏の戸口に近づいた。そして、そっと戸の隙間から覗《のぞ》いてみようとした時、不意におしおの立ち上る気はいがした。どうもこちらへ近づいてくるらしい。小平太は思わず一歩後へ退ったが、もう晩《おそ》かった。女は何の気もなくがらりと裏の戸を開けた。そして、思わぬ人の影に、「あっ!」と吃驚《びっくり》したような声を上げた。それでも気丈な女だけに、手燭《てしょく》を上げて、おずおず相手の顔を見遣りながら、
「まあ、旦那様でしたか。こんな所に立っていらして、本当に吃驚《びっくり》しました!」と言いだした「いったいどうなすったのでございます?」
小平太は棒立ちになったまま、返辞もしなければ、また動こうともしなかった。
「今ごろお出
前へ
次へ
全127ページ中120ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
森田 草平 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング